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そして二人だけになった (新潮ミステリー倶楽部)


 評価:★★★★☆ 4.5

 6人の密室、と聞いた時点で「クローズドサークルものにしてはちょっと人数が少なすぎやしないか」と思ったのですが、よく考えれば僕の大好きなあの名作「十角館の殺人」も6人だったし、もしかしたらこのくらいの少人数のほうが緊張感があって、かつ誰が犯人かを真剣に考えやすいので面白いのかもしれないと思いました。

 途中の微妙にポエムじみた言い回しはあんまり好きではないのですが、それ以外は常にハラハラして読める面白い小説だと思います。他の本格ミステリ作家と違って無駄なシーンがあまりないのが好きです。理系ミステリと文系ミステリ(そういった分類があるとして)を分けるものがあるとすれば、それはつまり証拠の入手の過程にあると思います。文型ミステリでは、ある人物から重要な証言を引き出すまでに多くのページが割かれるのに対し、理系ミステリの場合は証拠はいとも簡単に提示されます。ただしその証拠だけでは中々犯人を割り出せない。与えられた情報から矛盾がない回答をなんとか導き出す楽しみがあって、読んでて楽しくなるんです。

 今回、作者はかなりの挑戦をしたと思います。序盤の言い回しから察するに、最初からああいった形でのラストにすることを決めて取り掛かった作品なのかもしれません。この本を読んだ多くのミステリファンはきっと、あそこで終わっていればミステリとしてはかなり優秀な作品だったのにと思ったはずです。確かに、その手があったか!と感心させられるようなトリックで、ミステリフリークにとってはそれだけでもうお腹いっぱいとなるのですが、作者のアイデアはそこで留まることを知りません。その驚きさえも作者のアイデアにとってはほんの一部に過ぎない。

 最後、ある人物によってまとめられた手記が真実とすることもできるし、その後に続くラストの場面を真実とすることもできる。最後まで読んだ後に「観測点が異なれば……」の下りを思い出すと震えが止まりません。

 回答なんてものは観測点によっていくらでも変化する矛盾したものなのです。そしてそれをミステリを作り上げながら描き出した作者の力に脱帽するしかありません。


Author: mine
森博嗣 | permalink | comments(23) | trackbacks(77)
 
 

ドッペルゲンガー宮―あかずの『扉』研究会流氷館へ / 霧舎巧

 評価:★★★★ 4

 20世紀最後の新本格作家こと霧舎巧のデビュー作。

 ミステリ批判の常套句として「人間が描けていない」というのはよく聞くけれど、この霧舎巧のデビュー作もまさにその通り、全く人間が描けていません。ただ「人間が描けていない」というのはミステリにとって本当に短所となっているのでしょうか。むしろミステリに対してこれだけしつこく人間が人間が……と言われているのを見ていると、むしろ人間を描かないことこそが面白いミステリの第一条件なのでは? とさえ思えてしまいます。ミステリ読者が求めるものは、不可解な謎と常識はずれな解答、そしてその答えの説得力なわけですから。登場人物の葛藤だとかそういったものはあくまで付随的でしかないのです。
 つまりはキャラクターやその心情、舞台や背景なんてものは全部、謎が生まれるための、またそれが解かれるための、予め用意された道具でしかないのです。本作は他のミステリよりもずっと強くそれを感じさせてくれます。作者が下手なだけともいえるし、いやいやこれこそが作者のミステリ愛だ、という風にいうこともできる、と思います。

 まず、本作で特徴的なのは人物の記号化です。咲さん=超能力。大前田さん=鍵開け。などといった特殊能力(?)を割り振ることによってキャラクター付けを行うという、ライトノベルみたいなことをサクッとやっちゃってます。鳴海さんのハードボイルドやユイの子供っぽさも同じようなもの。なんでこんな事が許されるのかというと、これらの登場人物はすべてミステリにおける道具でしかないと割り切っているからだと思います。登場人物を記号化することによって各々の行動の理由付けを簡単にし、物語を展開させ、更には謎解きにまで応用する。すごい割り切り方だけど、それがミステリ愛なのかも、と思ってしまいます。

 それと、この作品を読んでいるとおそらくかなり早い段階で、なんか普通の作品と違うぞ? と違和感を覚えると思います。ただこの違和感はこの物語を成立させるために必要なのです。事件と全く関係のない日常の中でも、登場人物たちがしきりに論理だ論理だと騒ぎ立て行動や思考を推理したりと少々強引に思える箇所があったりします。ちょっとこの人たちは頭がおかしいんじゃないかな、なんでこの登場人物たちはこういう考え方をしてるんだろう? 読んでいるうちにこういう疑問が浮かぶはずです。その疑問に対して「あ、これがミステリだからだ」という答えを出せれば、きっとこの作品が面白く読めると思います。そうやって割り切ることができた瞬間から、登場人物たちから人間性とかいう邪魔なものがするすると消えていきます。こうして物語の中で彼らは記号化され道具となり、その役割を存分に演じることができるのです。

 きちんと道具を用意して、謎を披露して、上手く解決まで導いていく。ミステリ以外の要素をほとんど詰め込まないままあれだけの分量を書けてしまう作者はすごいと思います。なんだかもう勢いだけだと思いますけど。かなり極端な作品ですが、面白いんじゃないでしょうか。でもやっぱり受け入れられない人も多そう。
Author: mine
霧舎巧 | permalink | comments(0) | trackbacks(4)
 
 

絶叫城殺人事件 / 有栖川有栖

 評価:★★★ 3

 ミステリといえばやっぱり怪しげな館がでてこなくちゃ、と言うわけで、六つの奇妙な館で起こる事件を火村と有栖のコンビが解決していくというお話です。

 奇妙な館、とは言っても、嵐やなんかでそこに閉じ込められて怪しげな主人がいて美少女がいて密室で……みたいないかにもミステリな展開はないです。というか有栖川有栖ってあんまりそういう作品を書かないイメージがあります(綾辻と違って)。有栖川有栖の書く館でのクローズトサークル作品も読んでみたいんですけど、本作はいつも通りの有栖川っぽい作品となっています。

 いつもいつも古典的な本格ものという作風で、めちゃくちゃ吃驚するような衝撃的な結末なんかは無いんですが本当にアイデアが豊富だとつくづく感心します。今回もバラエティに富んだ内容で、どの事件も「館」がキーワードになっているんですが、それ以外は導入から展開からトリックから何もかもがバラバラです。ほんと引き出しが多いです。せっかく館が舞台なんだから一つくらいはクローズドサークルものを入れてくれてもよかったんじゃないかな、と思いましたけど、あえてそれをせずにタイプの違う六つの事件を用意しちゃうところが、なんていうか凄いです。
Author: mine
有栖川有栖 | permalink | comments(0) | trackbacks(0)
 
 

生まれる森 / 島本理生

 評価:★★☆ 2.5

 深く傷ついた過去の恋と、そこから生まれ変わるための新しい恋の始まりをさらりとした文章で描いていて、とても読みやすいです。20歳の恋愛についての話。

 すごく読みやすくて良い話だと思うんですけど、問題点を挙げるとすればそれは主人公の成長が分かりにくいことだと思います。「小説というのは始まりと終わりで主人公が成長していなければならない」とか三島由紀夫か誰かが言っていた気がするんですが、この作品も確かに主人公には変化があって、最初と最後を比べると確かに前に進んでいると思います。でもなんだか「作られた感じ」がまとわりつきます。過去の恋を振り返りながらも新しい恋に向けて歩き出す、というのはとても恋愛小説的な展開ですが、この安易な方法をとった割には工夫が足りなかったんじゃないかな、と思いました。「新しい恋をして成長する」のではなく、「成長させるために新しい恋を用意しておこう」みたいな感じが物語から滲み出しててちょっと嫌でした。そもそも過去に対して気持ちの整理がついた場面が明確に分からなかったりするので、なんだか新しい恋への気持ちの切り替え自体が唐突に感じられて、ちょっと不自然でした。

 まーでも恋愛ってそういう風に明確な線引きとかできなくってすごく曖昧なものだよねー、みたいに考えたら、なんか納得できる気もします。小説としてはやっぱり不親切だな、と思ったけど。
Author: mine
島本理生 | permalink | comments(0) | trackbacks(0)
 
 

くっすん大黒 / 町田康

 評価:★★★☆ 3.5

 格好良すぎる。町田康のデビュー作なんだけれど、本当に格好良い。今まで何作か読んだんですが基本的に町田作品というのは逃走がテーマになっていると思います。それも底辺からの逃走。でもその逃げ出した先が元々の場所よりも更に底いところで、っていうか底辺どころか穴が開いて落っこちちゃったみたいな場所で、ああどうしようもないや、ってなりながらドタバタを繰り広げていく感じ。全体的に破綻しているくせに、それについていかせるだけのきっちりとした文章の流れだったりして(一見そうは見えない)、それがおかしくてちょっと笑ってしまう。

 多分あんまり考えずに書いているんだろうけど、それでもこの発想力と、その一瞬の閃きを取り込んでその勢いのまま文章にしてしまえるのはやっぱり才能なんでしょうか。ちょっと最強過ぎてどうしようもない。よく知らないんですけど長編とかあるんでしょうか? すごく読んでみたいです。
Author: mine
町田康 | permalink | comments(0) | trackbacks(0)